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プロトタイプガイド 仁別の『カナ書きカトウ』


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▲現在は山形県真室川町にて動態保存されている仁別森林鉄道のD-40。まむろ川温泉 梅里苑 2021.6.5

2021年/第17回の記念エッチング板『カナ書きカトウ5tDL』について、仁別森林鉄道D-40を中心にプロトタイプのご紹介をいたします。
製作の参考にしていただければ幸いです。〔写真撮影:特記以外2021.6.5 中部浩佐〕


■仁別森林鉄道 D-40(真室川保存機)
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▲仁別森林鉄道D-40 仁別森林博物館にて保存時代の姿。1979.7 P:古川邦雄

現在、山形県の真室川町で動態保存されている『カナ書きカトウ』こと加藤製作所製の5tDL(軌間762mm)は、もともとは秋田営林局秋田営林署の仁別森林鉄道(1966/昭和41年廃止)で使われていた機関車だった
1943/昭和18年10月製造・1946/昭和21年8月購入で、導入当初から秋田営林署に所属。重量は厳密には4.8tとの由だが、いわゆる5tクラスの機体である。仁別森林鉄道の廃止時点において、秋田営林局における管理番号は『D-40』、機関は加藤自社製のKD-50型4気筒ディーゼルを搭載していた。
同機は廃車後、仁別森林博物館(1964/昭和39年開業)にて静態保存されていたが、1982/昭和57年に山形県真室川町が秋田営林局に申し入れのうえ譲受、同町にてエンジン換装等の整備を行い、1983/昭和58年より動態保存の状態となり今日に到っている。
当初は真室川町歴史民俗資料館の展示物として保管され、見学希望者の申し入れがあった際に火が入る程度であったが、2004/平成15年より町営の『まむろ川温泉 梅里苑』隣接の町有地に敷設された全周約1kmのエンドレス軌道にて、例年5月~10月の週末・祝日に定期運行されるようになった。
また、同機は2009/平成20年には経済産業省の『近代化産業遺産』にも指定されている。


・仁別森林博物館保存時代
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▲仁別森林博物館では、館の裏手の軒下に温根湯のBLWリアタンクや仁鮒の酒井F5(D-29)などとともに保存されていた。塗装は秋田局標準の濃緑一色ゆえ華には欠けるが、キャブ側扉の緑十字や、手スリと『カトウ』の陽刻に差された白がよいアクセントとなっている。写真4点すべて1979.7 P:古川邦雄

仁別森林博物館保存時代の説明プレートの文面(1979年7月時点・原文ママ):
デーゼル機関車
型 式  カトウ式 KD-50
重 量  5t
燃 料  軽油 
製作年月 昭和18年10月
製作地  東京都品川区
会社名  加藤製作所
5t程度の機関車は森林鉄道時代の主流をなし殆んどの
営林署で活躍したものです。
この機関車はここ仁別から秋田貯木場までの間を運行し
最後は森林博物館建設資材の運搬に当ったものです。

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▲1980年夏撮影のカラー写真。承前の古川邦雄さんによる写真の約1年後だが、その間に車体がリペイントされたようで、キャブ側扉の緑十字マークは失われてしまっている。1980.8.26 P:桜山軽便鉄道

・真室川町での保存

同じ秋田営林局の管内で森林鉄道が存在したという以外にはさして縁のない山形県真室川町にて、この『仁別のカナ書きカトウ』の保存が行われるに到った経緯と、その後の展開については以下の論文に詳しい。

1983年からの真室川町歴史民俗資料館での保存に当たり、D-40はエンジンの換装(カトウKD-50→いすゞDA220)を含む動態化整備を施され、その際に塗装も上回り:ライトグリーン・下回り:黒という、近年のファンにはなじみの深い装いに改められている。
併せてトレーラーも2輛(組)が用意され、資料館の敷地内には200mほどの線路を敷き、短いながらも往復での運転を可能とした。
トレーラーは、他所から富士重工製モノコック運材台車2組を入手し、うち1組には、当時秋田県合川町の大野ハイランドで保存されていた林鉄の客車(合川営林署管内で使用されていたものとされる)を模して新製したレプリカの木製車体を載せて客車とした。運材台車は上松運輸営林署(木曽)より譲受したものだというが、客車の足回りに使われた方はさておき、運材台車の姿のままのもう1組はブレーキハンドルが円形でかつ低い位置に取り付けられている青森局方式のため、前歴が木曽のものかどうかは疑わしいようだ。
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▲真室川町歴史民俗資料館にて保存時の姿。客車は撮影時点で製作から20年近くが経過していることもあってか、車体に痛みが目立つ。モノコック運材台車は、客車が履いている物と丸太を載せた物のブレーキハンドル形状の差異に注目。写真4点いずれも2002.6 P:城日野哲太


『カナ書きカトウ』は、2004/平成16年から保存場所を町営施設『まむろ川温泉 梅里苑』に移して、隣接の『体験交流の森』に敷設された延長約1kmのエンドレス線路にて定期的な運転を開始、町の観光資源としても認知されるようになって今日に到っている。
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▲梅里苑『体験交流の森』に敷かれた線路を走る、カナ書きカトウの列車。林の中を走る辺りは現役の林鉄のような気分も味わえる。写真いずれも 2021.6.5
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▲列車の乗り場(交流の森停車場)に掲示された説明板では、かつて町内に存在した真室川森林鉄道(秋田営林局真室川営林署所管)の機関車であるかのような書き方がされているが、事実とは異なる。
※実際の真室川森林鉄道は、この場所から10kmほど離れた奥羽本線釜淵駅を起点に西側に路線を延ばしていた。そこで実際に使われていた機関車は、以下リンクの山形県公式ページの『廃線となった森林鉄道』の項、2・3枚目写真参照。いちおう加藤製5tクラスの内燃機であった点については合致する

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▲牽引する車輛のうち、客車については梅里苑へ保存場所を移したのを機に北陸重機で車体を新造した(2004/平成15年製造、S/N:2540)。さすがに完全な木造ではなく、車体の骨組みは鋼製角パイプによるものだが、腰板部分はオリジナルのような羽目板に見せかけて細い丸太を並べて嵌め込んであるのがユニーク。窓は吹き曝しで巻き上げ式のビニールカーテンを備える。出入口は片側(現状はエンドレス外周側)の車体中央のみで、扉は腰板部分のみの開き戸。車内は木製の内張りとロングシート。
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▲左:客車が履くモノコック運材台車には背の高いブレーキハンドルポストが付く。また、梅里苑に来たときから編成はエアブレーキ化が図られている。右:客車の車内の様子。木製の座席は座面の凝ったつくり。


・カナ書きカトウの角度
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▲この機関車の最大の特徴といえるのが、鋳物部品の『カトウ』の陽刻。動輪の軸受もよく見ると『カトウST』と記されている。一方、一般的な加藤の機関車では『KST』陽刻がある中間伝導軸のフタは無地品。

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▲一歩引いてオーソドックスな角度での1枚。“カナ書き”刻印であるだけでなく、台枠のステップの天地寸法が小さい戦前製の加藤5t機の特徴を残す点でも貴重な個体である。


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▲いっぽう、左右のサイドビューを眺めてみると、全長に対するキャブの長さの比率が高いことが目につく。このプロポーションは5tクラスとしては少数派。なお、ボンネットが短めな分、カウル留めの数も片面で3ヶ所となっている。
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▲ボンネット・屋根上の全体を眺める
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▲▼ボンネット上でもっとも目につくのは、キャブ前面窓の前にある2つの蓋。四角い方がおそらく砂箱の蓋だと思われるが、もう一つが判然としない。なお、丸い方はキャブ寄りの一辺が欠き取られた形状で完全な円形ではない。
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▲注意していないと見落としそうだが、四角い方の蓋の背後に隠れるように花弁型のフューエルキャップがある。

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▲ラジエターキャップの後方には黒くて丸い蓋のようなものがあるが、これは動態化時に新設したラジエターの給水口と思われる。そのため、現役時代を再現するなら無視してよいディテール。ラジエター側面のライト掛けは、この機体の場合は正面から見て右側にのみ付く。
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▲後ろに客車が繋ぎっぱなしのため、キャブ背面は撮りづらくこんなカットしかないがご容赦。本エントリ冒頭の、仁別博物館時代の写真も併せて参考にして頂きたい。あとはキャブ後方の長い手スリの位置関係にも注目。

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▲これまた映り込みのひどい写真が多く恐縮だが、キャブインテリアの様子。運転台右手の計器類は真室川に来てからの後付けと思われる。


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▲前進左側のエンジンルーム内を見る。ボンネット上の項でも述べたが、ラジエターがオリジナルの物の背後に別物を装着しているようで、サイドから見ると不自然に後方に張り出しているのが判る。換装されたエンジンはいすゞDA-220(S/N:549968)。砂箱は一般的な逆三角形ではなく片流れの独特な形状。砂撒管も前輪の方にしか掛かっていない。

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▲右側のエンジンルーム内。1枚目はラジエターのホースの引き回し(ノンオリジナルだが)とバッテリーの搭載位置、2枚目は砂撒管の様子がよくわかる。2枚目、変速機のプレート(厳密にはシフターボックスの蓋)の刻印は『KATOWORKS SHINAGAWA TOKYO』。以上3点、2002.5.18 P:長倉朋春

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▲排気管の位置が左側台枠前方であることが一目瞭然のカット。本機にかぎらず、秋田営林局のこのクラスの機関車は側面排気のものが圧倒的に多い。

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▲台枠先端の上面には、よく見ると小さな孔があいているのが判る。ツカミ棒等を挿すための孔で、同型の仁別33-092の写真ではここに安全旗が立てられている。


■仁別森林鉄道 33-092
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今井啓輔さんが1965/昭和40年10月の仁別訪問時に撮影している機体です
外観は真室川保存のD-40と酷似しますが、キャブの背が明らかに高い/ラジエター脇にバックミラーを装備/ラジエター脇のライト掛けが左右2ヶ所ともあり且つマーカーライトを装備、という差異から、別個体と判断しています。
掲載書籍・ページは以下の通り。

なお、同じ仁別森林鉄道でなぜ番号の付け方が違うのか?と疑問に思われるかもしれませんが、秋田営林局の機関車は帳簿上の番号と実際に機関車に取り付けられているプレートの番号が一致していないケースがあり、改番ないし附番形態変更の有無を含め実態が明らかでないためです。
そのため、エッチング板の製品名や本稿での記載は、D-40の場合は廃止時点の帳簿上の番号、33-092の場合は実機のプレートの番号に基づいています。


■N型(タイプ)
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岡本憲之『加藤製作所機関車図鑑』(イカロス出版) p34・35の下部に『N型』と称する戦前撮影とおぼしき5t機の写真が掲載されています。エッチング板の機種は、ディメンションはボンネットとキャブの長さの比率が仁別D-40と同じp35の機体に準じつつ、キャブの造作はp34の機体に合わせたセミフリーデザインのため、N型"タイプ"と称しています。ただ、この形態そのものズバリの機関車が実在した可能性もないわけではありません。




by maruk-fes | 2021-09-26 11:18 | 記念製品(エッチング板)
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